Beautiful Harmony

美しいもの、センスいいことが好き | 東京生まれ | 北米16年 | 🇯🇵🇬🇧bilingual | ときどき宇宙通訳(チャネリング)& 星読み係 ❤︎このブログを読まれた方には 高次元の愛の周波数 「櫻色エネルギー」が流れる設定になっています。 「そのエネルギーを受け取る」と心の中で思っていただくだけで、 受け取っていただけます。

パリのミュージシャン(前編)

親愛なるソウルメイトたちへ

 

 

 

美しい女性の夢を見た。

 

1950年頃の、パリ。

 

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真っ赤な革靴。

グレーに白黒のチェック柄のワンピース。

真紅のルージュが、真っ白な肌に映える。

 

20代後半。

名前は、エミリー。

 

 

パリの街角に佇み

誰かを待っている様子だけれど、クールな表情。

 

やがて一台の乗用車が止まり、助手席に乗り込む。

 

 

 

着いたところは、高級アパルトマンの一室。

エミリーは、愛人に、この家をあてがわれていた。

 

 

品の良い調度品や、美術品に囲まれた部屋で、

裕福な愛人と過ごす時間。

 

 

エミリーはこの関係に満たされていた。

二回りも歳が離れた愛人は、優しく寛容だった。

 

 

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知的なエミリーは、経営者であった彼の

良き話し相手でもあり、

芸術や観劇、歴史や政治の話もたくさんした。

 

彼との結婚を望んだことはないが、

心身ともに、愛し愛されている実感があった。

 

 

 

それでも、ふとしたときに、頭をよぎる疑問があった。

"私の体も心も、この人を愛している。

だけど、あなたの魂は、彼を愛しているの?"

 

 

 

「私の魂が、愛している人...」

 

 

その声に耳を塞ぐように、エミリーは、

午後のパリを、よくひとりで散歩した。

 

散歩中、セーヌ川沿いの小道でギターを弾き歌う

青年を見かけるようになった。

 

 

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エミリーと同い年くらいの彼は

石畳の道端にあぐらをかいて

古びたギターを抱え、愛おしそうに奏でた。

 

 

目を閉じたり、空を見上げたりして歌う姿に

エミリーは惹きつけられ、

足を止めて聞き入った。

 

 

ある日エミリーは、彼に話しかけた。

「いつも、素敵な音楽を、ありがとう」

 

彼は笑顔でエミリーを見上げた。

「いつも、ここを通るよね」

 

 

彼の瞳の、奥の光、

それはほんの一瞬だったけれど、

 

 

「私の魂が、愛している人」...

 

 

 

急に怖くなり、
エミリーは視線を逸らした。

 

 

彼の質素な服装と、

小銭がパラパラ溜まっている

ギターケースが目に入った。

 

 

住む世界が、違う人。

 

「さようなら」と笑顔で

エミリーはアパルトマンに帰っていく。

 


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それでも数日すると

彼の声と笑顔が恋しくて、

セーヌ川のほとりを訪ねていく。

 

 

エミリーを見つけると彼は微笑み

手招きした。

 

隣にしゃがもうとすると

「ドレスが汚れてしまう」と、

石垣の上を手で払い、そこに座らせた。

 

 

「君の歌をつくったよ」とささやいて、

彼は小さなワルツを披露した。

 

 

優しくて、セクシーで、何かを思い出しそうになる

メロディだった。

 

「歌詞を、まだ、書いている途中なんだ...

完成したら、聞いてほしい」と、彼は微笑んだ。

 

エミリーの鼻の奥がつんとした。涙が溢れ出す前に、

「ありがとう。また来るわ」と、立ち上がった。

 

 

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数日後、エミリーは、愛人の車に乗っていた。

今日からしばらく、海辺の別荘で過ごすのだ。

 

 

「パリとは、しばしお別れね」と呟き

街並みを眺めた。

 

 

ふと見ると、あのギター弾きの彼がいた。

いつもの場所に、座っていた。

 

 

助手席のエミリーと目があった。

 

 

そのとき、車が止まった。目の前の道を、

痩せた野良犬がのろのろと横切っていた。

 

 

彼はギターをおろして、立ち上がった。

口を半開きにして、細めた目が、

泣きそうにも、怒っているようにも見えた。

 

 

彼のところに行きたい。

豪華な休暇なんていらない。

小さなワルツを、聞かせて。

 

 

車のドアに手を伸ばした瞬間、

車はゆっくり動き出した。

 

 

立ち尽くす彼の姿が、後ろに流れていく。

エミリーは、目を閉じた。

もう、何も感じなくていいように。

 

 

 

彼の姿を見たのは、それが最後だった。

 

 

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数十年のときが過ぎ、エミリーは、

妹に見守られ、この世から旅立った。

 

 

その数ヶ月前に、エミリーは

セーヌ川の彼に向けて手紙を書いていた。

 

 

投函されず、家の奥に仕舞われたその手紙は、

エミリーが去ったあと、妹によって発見され、

半年かけて、どうにか、彼のもとに届けられた。

 

 

 

 

 

 

あなたの歌を楽しみにしていたこと。

あなたを忘れた日は、1日もなかったこと。

あなたを、ずっと愛していたこと。

 

 

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大粒の涙が、音を立てて、便箋を濡らした。

 

 

彼は、奏で、そして歌った。

目を閉じて、空を見上げて。

聞き手のいない、小さなワルツを。

 

 

 

 (後編に続きます)





 

 かけがえのないあなたに、ありがとう∞

 

美和